「断らない」精神が選択肢を増やした<後編>

前回は学生時代の経験から働く目的を見つけ、最初の会社での新規事業に携わったことをきっかけに、グロービスへの転職につながるといった山岸さんのキャリアの歩み方をお伺いしました。

今回は、仕事の向き合い方、生活に対する意識についてお話を聞いていこうと思います。

仕事が単なる作業にならないために

ー仕事との向き合い方についてもお伺いしたいです。どういうことを意識して日々お仕事されていますか?

誰のためになんのために働くかをクリアに持っておくこと、ですね。

ーそれを思ったきっかけはなんですか?

グロービス経営大学院は、事務局と受講生の距離感がとても近くて、一緒に頑張って良い学校を作ろうという文化があります。だから日々の仕事は、ただ単にマーケティングをします、オペレーションを回します、という感覚かというと、そうではないんです。ここに通ってくださっている方のために何ができるかを、スタッフ全員が真剣に考えています。逆にそういう観点がなくなると単に作業になってしまいますし、大事にしたいものを見失ってしまうと思うことも、何回かありましたね。

また例えば、社内で意思決定するときに、これは受講生のためになるのかという観点が強い判断基準になっているので、それが染み付いてきたというのもあると思います。何か一つきっかけがあるというよりは日々の社内コミュニケーションであったり、自分の仕事を振り返って生まれました。

「断らない」が新たな領域との出会いを生んだ

ー単純に比較できるものではないかもしれないですが、大学生と社会人、生活面ではどっちが大変ですか?

結局、大学生はこれが本業というものがなくて、いくつかの草鞋を履いていたので

完全な自由時間は大学生の時の方が少なかったと思います。バイトして学校いってドットジェーピーの活動もして部活して…という毎日でした。

逆にいうと社会人は、特に若い時期は、仕事以外でちょっと自由な時間があります。だから自分の可処分時間をどう使うかを意識しないとと、ただ単に「働く、寝る!」それだけになってしまうので、時間をどう使うかを考えることは大事だと思いましたね。

大学オーケストラ時代の山岸さん

ー社会人は自由な時間ってどんなことをするのか想像つかないです…山岸さんはどんなことして過ごしているんですか?

何かをインプットする時間が多いです。本を読むレベルから、年一回は必ず外部の機関で勉強するということを行っています。永遠にテレビを見ることもできるんですけど、私の場合は少し次の未来に投資する時間を持っておかないとと行き詰まっちゃうのではないかという不安があるので、そういう時間の使い方を今はしてます。

ただ、20代の最初の方は働くと飲むこと以外は何もしてなかったです。

でもそれでよかったです。とにかくたくさん働いて、その結果、成長したと思うので。とはいえ、今も飲む時間は大事にしています(笑)

ー勉強ってどんなことしてるんですか?

2年ほど前に古典を学ぶ研修に参加したことをきっかけに、最近は古典などを読むことが多いです。直接的に仕事とは関係ないですが、自分の考え方とかマインドの持ち方とかに参考になっています。

あとは、趣味の領域ですけど地政学も学んでいました。まったく知らない領域だったのでとても楽しくて、シンガポール国立大学に行って一週間のプログラムに参加したりもしました。20代後半でグロービス経営大学院に私自身も通ってビジネスの勉強をしたので、今はリベラルアーツ的な領域に寄ってます。

ーそうなんですね。どうやって勉強したい領域を見つけていったんですか?

グロービス経営大学院で学んでるときに、たまたま卒業間際で受講したクラスが、経済・地政学のクラスでした。そのクラスを受ける中で、「地政学って全然知らない!知らなすぎて面白い!」と感じて、ハマってしまいました。そして地政学を学んでいる時のメンバー、特に経営者の方々が、古典の話題を時々されていて、やっぱりそういうの領域も学んだ方が良いのかなと感じました。そうしたらたまたま社内で、古典の研修にいける機会があったので「よし行ってみよう!」って思って参加したんです。いきなりプラトンやカントを読むことになり本当に大変だったんですけど、ちゃんとやってみるとすごく面白くて、それから更に興味を持つようになりました。

振り返ってみると、たまたまの出会いが繋がって今があります。なので、チャンスがきたら断らない、良いなと思った自分に素直になるというのは大事なのだと思います。

なんでも楽しいって思える力が強いんです。

ーざっくりと質問になってしまうのですが、山岸さんが生きてる中で楽しいことってなんですか?

え、働くこと!

だから、ワークライフバランスという言葉がありますが、私自身は「ワーク」と「ライフ」を分けて考えていません。我々の時代、働く時間がとても長いんです。寿命ものびていて、65歳で定年退職、いち上がり!っていうのは難しい。私であれば、あと35年くらい働くことになると思っています。

そういう時代だと、働くことそのものが楽しいと思えないと、少し辛いと思うんですよね。私は幸い、仕事がとても楽しい環境なので、仕事もプライベートも融合して全体的に幸せだな、と感じています。

ー素敵ですね!仕事が楽しい瞬間って例えばどういう時ですか?

学校ビジネスなので、例えば節目となる入学式とか卒業式はもちろん感動しますが、それ以上に、毎日が楽しいなと思っています。

大前提として私は、何でも楽しいと思える力が強い自覚があります。

例えば前職の時、リーマンショックの影響で、外注してた研修の紙を自分たちで全部印刷することになった時期があったんです。その時は1年目だったので機械の前でずっと印刷の枚数チェックして段ボールにしまうといった単純作業を1ヶ月近くやってました。

でもそういうの全然平気でした。この仕事が何につながっているのかということを考えれば意味を見出せましたし、どうやったら効率化できるかをみんなで考えることも楽しいと思えるんです。

だから、私、どういう仕事をしていても、大体終わった後に「ああ、良かったな、楽しかったな」と感じている気がします。

でもそういう力、大事だと思っています。自分がやりたいことだけをできるわけではないので、できるかぎり多くの仕事を楽しいと思える思考を身につけてた方が、幸福度は高いと思います。

人との関わり方を変えた失敗体験

ー社会人になって後悔していることってありますか?

後悔というと、あまり思い浮かばないな。

というより、後悔という言葉に引っかからないのかも。後悔も失敗も実際はたくさんあるんですが、「後悔のまま終わらせない」のだと思います。何かが起こった後振り返って、自分にとっての学びは何だったのか、次にどう活かしていくのか、そういったことを考えているので、あまり「後悔」という枠組みの中で残っていないのだと思います。

ーじゃあ…仕事していて1番の失敗って何かありますか?

ああ、後悔にも若干繋がるかもしれないんですけど…

社会人2年目のはじめに、自分が変わったなと実感できた経験があって、その時に自分がこれまでやってきたことは間違っていたたと思ったんです。

それが「自己開示」なんですね。

私、本当に愛想のない1年目だったんです。どっちかというと斜に構えてる感じが強くて。みんなで盛り上がるとかがあまり得意ではなかったし、粛々と仕事をしていたいという感じで…周りにもあまり相談せず、それが私のスタイルだと思ってたんですよね。

ただ2年目に、すごく信頼していただいたお客様と仕事している時、「もっとちゃんと山岸が考えてることを出せ」と言われたんです。それがきっかけで、自分の考えを開示してみたら、とても良い研修の場になったことがあったんです。ここでは省略しますが、泣けるくらい印象深い経験でした。

その時、思っていることを出すとこんなに世界は変わるし、相手からちゃんと信頼していただけるとわかったんです。成果をしっかり出すだけでいいと思ってたんですが、それだけでは、本質的な人間としての信頼は得られないんです。

ちゃんと努力をして、考えていることを言葉に変えて伝えていかなければならない思いました。そこから、人との向き合い方を変えなければいけないと感じましたね。

なので、この経験はある種、自己開示をしてこなかったという失敗だったと思ってますね。

「ちゃんと」やるのは自分がちゃんと納得できるため

ー学生時代の経験で今一番生きていることは?

「ちゃんと」やる経験は、今も活きていると思います。

頑張る言ってきたんですけれども、言い方を変えると、ちゃんとやることを当時から大切にしてましたね。目立たないことでも「ちゃんと」やっていって信頼残高を高めていくことはすごく大事にしてます。

人が見てるか、見てないかとかではなく、自分がちゃんと納得できるプロセスを踏めているかどうか、ちゃんと一つ一つやっていくことを私は大事にしてました。

余談ですが、ドットジェイピーでの経費精算のプロセスがものすごく厳しくて、ちょっとでも手続きを間違えると、本当に一銭も戻ってこないんです。だから学生の時、5万円くらいの経費を自費で被うことになったりしました。本当に怖かったです。ただそれくらい厳しく、ちゃんとやることの大事さを叩き込まれたと思います。そういう経験から、一つ一つ丁寧にちゃんと取り組むことを学び、今でも大事にしてます。それが周囲からの信頼残高に繋がると、私は信じてます。

ー今後、こうなりたいとか目指されている姿はありますか?

グロービス経営大学院という学校が本当に好きなので、より良い学校を創っていくために、ちゃんと頑張って、ちゃんと成果を出して、ちゃんと周囲との信頼感を築いて、ちゃんと良い仕事をしたいと思っていますね。

ただもう少しできるようにならないとなと思うのは、「ちゃんと」の時間軸がまだ私は短いなと思ってるんですね。もう少し長期のレンジでいろんなことを考え、描いていかなかなければならないと感じているので、そこはまさに自分の目指すことであり、それを実現するために能力開発が必要だと感じています。

山岸さんからのFOREFACE

絶対、いろんなことを経験した方がいいです!

自分の可能性を広げておくことに一ミリも損はないです。知らないことを知るって楽しいし、知っていけば自分の選択肢は広がっていくと思います。

大学生って可能性を広げることが出来る、本当に良い時間だと思うんですよね。

いろんなところに顔出してみて、こういう世界があるんだなってことを知って欲しいです。

知るだけでも価値があるし、知ったことによって将来いろんなものが点と点が繋がっていく瞬間が絶対くると思います。

それは自分の人生にいろんな意味の豊かさを与えてくれると思うから、いろんなところに行ってみると良いんじゃないかなと思います。

ーこういう方針で生きようという軸が山岸さんの中に常にあると感じたのですが、それはどうやって作られていくんですか?

きっかけが一つあったからなのか、漠然といろいろされていく中で滲み出てまとまってきたものなのかどちらですか?

完全に後者です。初めからやりたいことがあったわけでは全くないですし、それに若干悩むことがあったのも事実なんですけれども。だからいっぱいいろんな事をやるんです。

いろんな事をやってできることを増やして選択肢を増やして、その中でやっとやりたいと思えることに出会ったと思ってます。

要は、元々willがあったわけではなくて、canを増やしていって、自分に対する自己肯定感を高めて自信をつけていったんです。そしてできることを増やした結果、「これ」というものを見出したのだと思います。

なので、時々就職活動の相談をされたりしますが、とりあえず説明会はたくさん行った方がいいって言ってるんですね。

やりたいことがわからないなら、まずは色んな業界や会社に行ってみて話を聞いたり触れたりすれば、好きか嫌いかがある程度分かります。もしくは、好きがわからないのであれば、好きになれない理由を列挙していくと、絞れていき、自分の心が動く方が見えてくると思います。

ー色々挑戦したいけど、失敗するリスクとかを考えすぎちゃって動けないことがあると思うのですが、そういう恐怖心とはどんな風に向き合ってますか?

先ほどもお話ししたように、私自身、後悔や失敗はたくさんあったと思います。ただ、全部良い経験だったと感じています。要は、自分で責任をもって意思決定をして、どういう結果になろうとも、その意思決定が正解だったと思えるように努力と思考していくことが大事なのだと考えています。

だから、何かを判断する価値基準を、他人のものさしでなく、自分の物差しで測ることはすごく大事だと思います。ただ自分の物差しは簡単に作れるかというとそうではないですし、他人と比較したくなるっていうのも事実だと思います。

それでも自分の物差しを作り信じるためには、行動や学び続けることが大事だと思いますし、それらすべて含めて自分が何を経験したのか、そしてそこから何を得たのかを振り返ることがが本当に大切だと感じています。

 

ー自分の経験に勝るものはないって本当ですね!ありがとうございました。

インタビューを終えて

貴重なお話ありがとうございました!楽しいことはなに?という質問にとびきりの笑顔で「仕事!」と即答する山岸さんの姿が印象的でした。辛いことはあっても、自分のやっていることが好きだと思えることがとても羨ましいです。

学生時代から「断らない」をポリシーにいろんな経験に飛び込んで、少しずつできることを増やして、自信をつけて、次の指針に繋げながら生きてきた姿をみて、人生近道はできないと感じました。残り少ない学生生活ですが、自分の可能性を広げることに一ミリも損はないという山岸さんの言葉を胸に、気になったことは全部挑戦したいと思います。

やりたいことが見つからない、と将来に対して漠然とした不安を抱いている人も多いと思いいのではないでしょうか。そんな人に「次きたお誘いを断らないで、予定をこじ開けてでも行ってみよう!」と思ってもらえたら嬉しいです。

「断らない」精神が選択肢を増やした<前編>